和歌と俳句

三津口を又一人行く袷哉 子規

五斗米の望もなくて古袷 子規

そでに手を入て反りたる袷かな 漱石

思ひ切つて五分に刈りたる袷かな 漱石

袷著て假の世にある我等かな 虚子

啄木
垢じみし袷の襟よ かなしくも ふるさとの胡桃焼くるにほひす

青物を買ふ女房の袷かな 碧梧桐

晶子
柳濃くなりぬ御堂の大徳も舞姫たちも袷着てより

紅袍の下に袷の古びかな 虚子

袷著て袂に何もなかりけり 虚子

袷着てほのかに恋し古人の句 石鼎

柿の葉のかへす光や初袷 石鼎

万筋の縞が流るゝ袷かな 喜舟

市人恋うて街歩くなり絹袷 かな女

落葉松の緑こぼれん袷かな 水巴

妻に慊らぬ袷きる日のねむし 碧梧桐

蓬々と汝が著たる袷かな 虚子

頑なに情けうすからず袷人 みどり女

草枕袷の領の汚れかな 橙黄子

今宵乗る船見て歩りく袷かな 橙黄子

真向に比叡明るき袷かな 播水

人なつくあはれ身にそふ袷かな 蛇笏

後ろより髪ほめてゐる袷かな 月二郎

着るまへの束の間ほせし袷かな 石鼎

早々と子には着せたる袷かな 淡路女

抜きすぎの衣紋いやしき袷かな 草城