麦蜻蛉蔓にとまつて光るなり
白帆舟思ひ思ひや葉月汐
草籠負うて通る女や谷の鮠
中流のどかと深さや鮠迅し
裾野より明けそむる野や五月鯉
くれそめて松間がくれや庵幟
ほそ茎のうす紅や湯の菖蒲
広き軒に一枚釣つて簾かな
明易き障子にうつる簾かな
塀内に遊ぶ雀や花ざくろ
青蚊帳に朝日くる間や花ざくろ
みるうちに豪雨となりぬ枝蛙
盤石へたれて簾や峠茶屋
お簾越しにざくろの花の赤さかな
慈姑の葉とがりし先の蛍かな
大屋根へひらめき逃げし蛍かな
蛍なほ光ある如く死に居たり
はなれとぶ蛍や蓮に雨来る
尻の火に横条もゆる蛍かな
蛍打てば木の苔てらし落ちにけり
夕空の星とわかやぐ蛍かな
藪の穂に高きほたるや夕まぐれ
狂ひ落つ蛾に灯暗しやかやの外
落ちし蛾のおののき這うてとびにけり