和歌と俳句

原 石鼎

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初夏の瞳海を飛ぶ蝶一つ

鯉の眼に朱の輪黄の輪や幟店

檜葉の尖ほのと黄に出て若葉雨

刈株に鎌の刃跡や麦の秋

麦の穂にわが少年の耳赤し

狂ひたる我の心や杜若

芭蕉一葉に銀蝿のつて梅雨入かな

仏花すててまさご尊し梅雨明り

梅雨曇る心の底にひびくもの

くもりがらすに今日も喇叭や梅雨の虫

蝸牛の糸ほどのびて角哀れ

口臙脂のたまむし色に桜んぼ

二度ばかり弧描き消えぬ夕蛍

月浴びる檜葉をきらうてとぶ蛍

葦の蛍這ふ時翅に暗さあり

一つ来て三つになりぬ水馬

青芒今より刈つて山の人

鯖の骨は猫へと闇やほととぎす

檻の獅子歩き廻りぬ夕立風

獅子の顔に暗きかげあり檻に蝉

獅子の顔に暗きかげあり雲の峰

喇叭卒紐紅ゐに雲の峰

紅もゆる団扇の紐や天瓜粉

行水の老尼はなげく二日月

炎天や白扇ひらき縁に人

掌に掬へば色なき水や夏の海