霍乱のさめたる父や蚊帳の中
霍乱さめし手のほとりなる扇かな
世は地獄よしはらすずめほととぎす
夏帽や我を憎む人憎まぬ人
羽抜鶏梧桐の風を怖れけり
磐石に垂れて小さき簾かな
鰹木に藤房垂るる青田かな
ゆづり葉に一線の朱や雲の峰
迅雷やおそろしきまで草静か
迅雷や天つる蔓に色もなし
桶のもの皆光らせあふつ日除かな
草に置けば笠静かなる清水かな
午寝茣蓙かかへて今日も鐘楼へ
いつの間に壁に向きゐし午寝かな
頤に雫して泳ぎ冷えし子上りけり
木蔭より泳ぎ出し子よ流されな
汚れたる手拭もちて泳ぎかな
青柿の落ちて亀裂や草の中
桶の茄子ことごとく水をはじきけり
葛水に映る空なき簾かな
葛水に雷雲杳と起りけり
棕梠の根のやけつく石に蟻速し
乳児の汗を穿つ恐ろし蠅の嘴