和歌と俳句

原 石鼎

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雨の若葉にうつら移りす鹿の脚

一枝たれて鹿を遮り若葉雨

足場行き交ふ足のみ見ゆる若葉かな

白緑の茎さめざめと芥子もゆる

梅雨の巨樹の雫淋しと仰ぎけり

梅雨入蛇或は道にあらはれし

草花にあはれ日のさす出水かな

人の拳に羽ばたき上る鵜やあはれ

籠を出でし鵜によろこべりせぜの波

薫風やゆづり葉落ちて草による

白雲や野を来し卓に覆盆子あり

簾買うて戻るばかりに夜を出でし

笑みを含んで俥上の人や夏の山

滝涼し樹を飛びし鳥下の岩に

石蕗苔にべに葉や永久の滝雫

とび来る雷蝶や山清水

江の島涼し水泡の国の思ひして

日沈むを待つかに出でて舟涼し

卓高し溢れむばかり麦酒つぐ

簾巻くや風鈴星をしたひ鳴る

葉と落ちて紫金まどかや金亀子

瓶の金魚尾を振りたてて糞長し

松並木へ人去る淋し土用波