一扇の軸を上座に契沖忌
雲しきてとほめく雪嶺年新た
渓聲に鷹ひるがへる睦月かな
春めきし雨に瀬ばしる磧
機街の一と筋さきに雪解富士
鴎かけて砂丘の古墳春暮るる
ぱつぱつと紅梅老樹花咲けり
燈籠に夏さだまりて山の墓
ころもより僧の布施透く盆會かな
麦秋の小雨にぬるる渡舟銭
椋鳥むれてすれずれにとぶ青田原
とほめきて雲の端に啼く夏ひばり
簾の垂りてはないろ淡き桔梗さく
高台の月光けぶる蔬菜園
打鎮む山を央に秋耕す
やまざとの瀬にそふ旅路秋の雨
幸福に人のくつおと秋の苑
夜を覚めてこころしんじつ秋の闇
葬送の山路がかりにいわし雲
戦死報秋の日くれてきたりけり
盆の月子は戦場のつゆときゆ
なまなまと白紙の遺髪秋の風
遺児の手のかくもやはらか秋の風
靈まつる燭にまちかくひとり寝る
子のたまをむかへて山河秋の風
秋草をとりてひややか菩提心
秋の雲歳月はやくながれけり