和歌と俳句

飯田蛇笏

雪峡

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遺兒と寝て一と關Xたる冬座敷

ふるさとの闇こそしづめ大晦日

天闢くごとく寒雲きえゆけり

こたへなき雪山宙に労働歌

酪農の娘が恋しりて初日記

しろがねの潮たる初日濤をいづ

地靄してこずゑにとほく春鶫

遺兒愛す情おのづから花ぐもり

新暖のとげとげしくて山椒籬

雨あしのさだかに萌ゆるよもぎかな

桃林はみづえをそろへ麦青む

翁草日あたりながら春驟雨

霊前に供華沈丁の夜のかをり

小降りして鴎に春ゆく清見潟

富士かくる雨にさく田畔かな

印旛沼の幾重の雲にかへる雁

春雁をとどむるとしも五湖の雨

やまのはの樅に瀬音やはるかすみ

春雪に子の死あひつぐ朝の燭

僧とあふ坂の好日梅の花

さきはひのもとも身近く春耕土

もろもろの霊に有情のはなぐもり

梅雨の雲幾嶽々のうらおもて

菜園の雨にきこゆる夏ひばり

雨鬼鳴きてくもる菜園柘榴さく