あきかぜやためてよしなきはした銭
なんばんに酒のうまさよ秋の風
柑園の夜に入る燭やあきのあめ
饗宴の灯にとぶ蟲や菊膾
胡桃樹下水くらく凪ぐ帰燕かな
胡蘿に尾羽うちしづむとんぼかな
刈りさして廬にしめやかやそばの花
山蟻の雨にもゐるや女郎花
足あらふ来客をみる芭蕉かな
芋の葉や孔子の教へ今もなほ
月明に高張りたちぬ萩のつゆ
葬人の野に曳くかげや神無月
十二月桑原になくすずめかな
極月の法師をつつむ緋夜着かな
あすしらぬこともをかしや雪つもる
月いでて猟夫になくや山がらす
月入れば北斗をめぐる千鳥かな
萬歳に撓める藪や夕渡舟
三月や廊の花ふむ薄草履
墨するや秋夜の眉毛うごかして
刈草に尾花あはれや月の秋
秋風や顔虐げて立て鏡
金剛力出して木割や露の秋
つまだちて草鞋新たや露の橋
水門や木目にすがる秋の蠅
秋草や濡れていろめく籠の中
芋喰ふや大口あいていとし妻
崖しづくしたたる萱や紅葉しぬ
うらうらと旭いづる霜の林かな
月さして鴛鴦泛く池の水輪かな
廊わたる月となるまで手毬かな
火に倦んで炉にみる月や浅き春
山雪に焚く火ばしらや二月空
月褒めて雪解渡しや二三人
月いよいよ大空わたる焼野かな
牧霞西うちはれて猟期畢ふ
落汐や月になほ恋ふ船の猫
谷川にほとりす風呂や竹の秋
三伏の月の小ささや焼ヶ嶽
うち越してながむる川の梅雨かな
から梅雨や水面もとびて合歓の禽
夏山や又大川にめぐりあふ
汗冷えつ笠紐浸る泉かな
深山雨に蕗ふかぶかと泉かな
剪りさして毒花に睡る蚊帳かな
瀬をあらびやがて山のすほたるかな
風向きにまひおつ芋の蛍かな
後架灯置くやもんどりうつて金亀子
夏蝶や歯朶ゆりて又雨来る
雲ゆくや行ひすます空の蜘蛛
濁り江や茂葉うつして花あやめ
ふためきて又蟲とるや合歓の鳥
秋日や喰へば舌やく唐がらし
陰暦八月虹うち仰ぐ晩稲守
はつ秋の雨はじく厚朴に施餓鬼棚
月高し池舟あがる石だたみ
秋月や魂なき僧を高になひ
夕霧やうす星いでて笠庇
鳥かげにむれたつ鳥や秋の山