もの知りの長き面輪に秋立ちぬ
初秋や軽き病に買ひ薬
墓拜む人の後ろを通りけり
業を繼ぐ我に恥無し墓参
花提げて先生の墓や突当り
端近く連歌よむ灯や露の宿
相慕ふ村の灯二つ虫の声
大いなる月を簾に印しけり
月のみにかかる雲ありしばしほど
月に飽きて明星嬉し森の上
鵜籠置く庭広々と鶏頭花
鵜籠負うて粟の穂がくれ男行く
秋風に鵜を遣ひけり唯二匹
秋風にいつまで遇はぬ野路二つ
露けさに障子たてたり十三夜
三人は淋しすぎたり後の月
朝寒や行き遇ふ船も客一人
荻ふくや提灯人を待つ久し
荻吹くや葉山通ひの仕舞馬車
牛の鼻繋ぎ上げたる紅葉かな
竹青き紅葉の中の筧かな
僧といへば立秋の偈を示さるる
桐一葉日当りながら落ちにけり
僧遠く一葉しにけり甃
仲麿の舟は波間や天の川
都なる祖先の墓に参りけり
國にゐて家守る兄と墓参
風の日は障子のうちに燈籠かな
六十になりて母無き燈籠かな
うき人の誰見に来けん踊かな
としどしに月かかる松や踊りけり
送火や母が心に幾佛
天の芭蕉天のさぼてんと竝びけり
女客我家気づかふ野分かな
秋の空に届く一もと芒かな
虫聞きに塔をめぐれる法師かな
説法の日毎の場や捨扇
主しるき忘れ扇の絵やうかな
襟にさして忘れ扇や秋の風
秋扇や淋しき顔の賢夫人
ひらひらと釣られて淋し今年鯊
鬼灯はまことしやかに赤らみぬ
秋空を二つに断てり椎大樹
老の頬に紅潮すや濁り酒
豊年の稲に全き案山子かな
鳴子引きて尚ほうと追ふ鴉かな
引く人もなくて山田の鳴子かな
あらはなる昼の砧に恋もなし