葦鴨の羽がひの霜や置きぬらむ尾上の鐘もほの聞こゆなり
小塩山こまつが原はしげくとも頼むこずゑを神もわかなむ
呉竹のかはらぬ色を友とせし人の心の内を知るかな
雲晴れて鶴こそあまた聲すなれ君が千歳を空に知れとや
匂へども花は春のみ吉野山苔のみどりぞときはなりける
世をすてば吉野のおくに住むべきを猶たのまるる春日山かな
をりごとに思ひぞいづる泉川つきをまちつつ渡りしものを
春日野は子の日若菜の春のあと都の嵯峨は秋萩のとき
ききわたる関のうちにも須磨の関名をとどめける波のおとかな
新勅撰集・雑歌
都いでて伏見を越ゆる明け方はまつうちわたすひつかはの橋
住吉の松吹く風はおくれども心ぞとまる過ぐる舟人
別れてふ名こそつらけれ旅衣たち離れては日數経ずとも
まろ節のしばのしきゐに露ぞおく夜や更けぬらむ小夜の中山
松のかど竹のはしらの山里は千代も経ぬべき心地こそすれ
牡鹿なく山田の庵は月ももる驚かさでぞ見るべかりける
昔をば神もあはれと思ひいでよ月に山路をととせ見し人
夢をなど儚ききものにたとふらむみよのことまで見ゆとこそきけ
暮れを待つあしたの露もかたき世に猶さだめなし野邊の秋風
春日山谷の松とは朽ちぬとも梢にかへれ北の藤波
天が下のどけかるべき君が代は三笠の山のよろづよのこゑ