跡だにも長柄の橋のわたりには枯葉の葦ぞ形見なりける
月きよみ瀬々に氷や結ぶらむ佐保の河原に千鳥なくなり
大和路や駒うちわたす山川の氷ふみわけ通ひしをわが
昆陽の池の葦のかれはの八重葺やともねの鴛のすみかなるらむ
ちはやふる宇治のかはをさ老いにけり網代はとしもよるにぞありける
吹きたつる庭火の前の笛のねは天の岩戸もさこそあけけめ
雪ふりぬしばしやすらへ御狩野に白斑の鷹はこゐやまがへむ
遠ち方や都のたつみたれすみてまきの炭竃けぶり立つらむ
年暮れてあるにもあらぬ埋み火に老い果つるの程ぞしらるる
いはねこすやそうぢ川の波よりも早くも過ぐる年の暮れかな
誰となきそらたきものの匂ひこそうきたる恋の標なりけれ
見せばやなしづのしのやのしのすすきしのびわびぬる床のけしきを
逢ふことは渚によするうつせみの虚しき波に濡るる袖かな
契りあれやこよひ伏見の里にきて草の枕をかはしそめぬる
暮れをまつ命さりともなからめや今朝の別れのなどや悲しき
あさましや袖ぬれてこそむすびしかまたかけみせぬ宿のま清水
忘るなと契りし宿はいかがあらむ野にも山にもおもかげぞたつ
水鳥の浮ける心か浅きだに下のおもひは有りとこそきけ
先の世のわが身ぞつらき君がためかかりければやむくひなるらむ
恨み侘び猶かへせども小夜ごろも夢にもおなじつらさなりけり