和歌と俳句

慈円

ふるさとに とめし心に 離れきて 身はかりそめの 草枕かな

都いでて いくよあかしの うらならむ くもらぬ月も ひかずなりけり

鳥もがな 都はるかに すみだ河 とはばや人の 夜はのねざめを

月かげを 袖にかけても みつるかな すまのうきねの ありあけの波

さとりゆく まことの道に 入りぬれば こひしかるべき ふるさともなし

山里に いそぐ心は さ夜ふけて たのむかきねに まつむしのこゑ

思ひいづる 都のともの なきぞ憂き 月をまつ風 ひとりながめて

山里に あからさまなる みやこ人 さびしとや思ふ 住みうからぬを

みやまべの あはれや空に うつるらむ まきのこずゑに ありあけの月

新古今集・雑歌
いつかわれ み山の里の 寂しきに あるじとなりて 人にとはれむ

ちとせまで つもれる年の しるしとて 雪をかさぬる 鶴のけごろも

あくるをぞ おのがやこゑに 人は知る ゆふつげ鳥と いかにいふらむ

ことにわが ひとこはなれて かふぬかの ぬかづくことは 君をいのりて

わがくには みのりのみちの ひろければ 鳥もとなふる 仏法僧かな

いかにして はとのふつゑに かかるまで 君につかへて このよくらさむ

かみかぜや みもすそ川に よる波の 數かぎりなき 君がみよかな

君がよの 数はいくよと 石清水 すむべきすゑは 神ぞしるらむ

はるばると 君がちとせを 三笠山 さしてのどけき 天の下かな

かねてうゑて 年もつもりの 松なれば おひそふすゑも なほぞはるけき

やはらぐる 日吉のかげを たのむかな のどかに照らせ 君がちとせを