和歌と俳句

慈円

新古今集・神祇
やはらぐる光にあまる影なれや五十鈴河原の秋の夜の月

新古今集・神祇
君を祈るこころの色を人問はばただすの宮のあけの玉垣

新古今集・神祇
小鹽山神のしるしをまつの葉に契りし色はかへるものかは

新古今集・神祇
やはらぐる影ぞふもとに曇なき本のひかりは峯に澄めども

新古今集・神祇
わがたのむ七のやしろの木綿襷かけても六の道にかへすな

新古今集・神祇
おしなべて日吉の影はくもらぬに涙あやしき昨日けふかな

新古今集・神祇
もろ人のねがひをみつの濱風にこころ涼しきしでの音かな

新古今集・神祇
覚めぬれば思ひあはせて音をぞ泣く心づくしのいにしへの夢

新古今集・釈教
願はくはしばし闇路にやすらひてかかげやせまし法のともし火

新古今集・釈教
説くみ法きくの白露夜は置きてつとめて消えむ事をしぞ思ふ

新古今集・釈教
極楽へまだわが心ゆきつかずひつじの歩みしばしとどまれ

新古今集・釈教
いづくにもわが法あらぬ法やあると空吹く風に問へど答へぬ

新古今集・釈教
思ふなようき世の中を出で果てて宿る奥にも宿はありけり

新古今集・釈教
鷲の山今日聞く法の道ならでかへらぬ宿に行く人ぞなき

新古今集・釈教
おしなべてむなしき空とおもひしに藤咲きぬれば紫の雲

新古今集・釈教
いにしへの鹿鳴く野辺のいほりにも心の月はくもらざりけり

新古今集・雑歌
思ふことなど問ふ人のなかるらむ仰げば空に月ぞさやけき

新古今集・雑歌
いかにして今まで世には有明のつきせぬものを厭ふこころは

新古今集・雑歌
世の中を今はの心つくからに過ぎにし方ぞいとそ恋しき

新古今集・雑歌
世を厭ふ心の深くなるままに過ぐる月日をうち数へつつ

新古今集・雑歌
一方に思ひとりにし心にはなほ背かるる身をいかにせむ

新古今集・雑歌
何故にこの世を深く厭ふぞと人の問へかしやすく答へむ

新古今集・雑歌
思ふべきわが後の世はあるか無きか無ければこそは此の世には住め