和歌と俳句

万葉集

巻第三

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   安倍廣庭卿歌一首
雨不零殿雲流夜之潤濕跡戀乍居寸君待香光

雨ふらずとのぐもる夜のぬれひてどこひつつ居りき君待ちがてり

   出雲守門部王思京歌一首 後賜大原真人氏也
飫海之河原之乳鳥汝鳴者吾佐保河乃所年國

おうの海の河原のちどり汝が鳴けばわが佐保河のおもほゆらくに

   山部宿禰赤人登春日野作歌一首并短歌
春日乎 春日山乃 高座之 御笠乃山尓  朝不離 雲居多奈引 容鳥能 間無數鳴  雲居那須 心射左欲比 其鳥乃 片戀耳二  晝者毛 日之盡 夜者毛 夜之盡  立而居而 念曽吾為流 不相兒故荷

春日を 春日の山の たかくらの 御笠の山に  朝さらず 雲居たなびき かほとりの 間無くしば鳴く  雲居なす 心いさよひ その鳥の 片恋のみに  昼はも 日のことごと 夜はも 夜のことごと  立ちて居て おもひぞあがする あはぬこゆへに

   反歌
高按之三笠乃山尓鳴鳥之止者継流戀哭為鴨

たかくらの 三笠の山に 鳴く鳥の やめばつがるる 恋もするかも