和歌と俳句

藤原良経

十題百首

君を祈る時しもあれや神風の身にしみわたる伊勢の濱荻

月のすむ秋のもなかの石清水こよひぞかみの光なりける

きのふかも絶えぬみあれを御手洗に雲居のつかひ今日やたちそふ

いなりやま峰の杉むら風ふりて神さびわたるしでの音かな

うきよにも露かかるべき我が身かは三笠の森のかげにかくれて

宮居せし年もつもりのうらさびて神代おぼゆる松の風かな

頼むべき日吉のかげのあまねくば宮路のすゑも照らさざらめや

神垣の御前のはまの濱風に波もうちそふ里神楽かな

やくもたつ出雲やへかき今日までも昔の跡は隔てざりけり

まれになる跡を尋ねし熊野山みしむかしより頼みそめてき

もゆる火もとづる氷も消えずして幾世まよひぬ長きよの闇

身をせむる上のこころにたへかねて子を思ふ道ぞ忘れはてぬる

水にすみ雲井にかける心にも憂き世の網はいかが悲しき

波たちし心の道の末はまだ苦しき海の底にすむかな

夢のよに月日はかなく明け暮れて又は得難き身をいかにせむ

玉かけし跡には露を置き換へて色おとろふる天の羽衣

果てもなく虚しき道に消えなまし鷲のみ山の法にあはずば

奥山にひとり憂き世は悟りにき恒なき色を風にまかせて

秋のつき望は一夜の隔てにてかつがつ影ぞ残るくまなき

暗かりし雲さながら晴れつきてまた上もなく澄める空かな