あらたまの年をくもゐに迎ふとて今日もろひとに神酒たまふなり
新古今集
空はなほかすみもやらず風冴えて雪げに曇る春の夜の月
木の間より日かげや春を洩らすらむ松のいはねの水のしらなみ
雪きゆる枯野の下の浅みどり去年の草葉や根にかへるらむ
けふはわれ君のみまへに取るふみのさしてかたよる梓弓かな
みやこ人やどを霞のよそに見てきのふもけふも野邊にくらしつ
片岡の霞もふかき木隠れに朝日まつまの雲雀鳴くなり
おもかげに千里をかけて見するかな春のひかりに遊ぶいとゆふ
見ぬ世まで思ひ残さぬながめより昔にかすむ春のあけぼの
秋ならば月待つことの憂からまし櫻にくらす春の山里
をちかたやまだ見ぬ峯は霞にてなほ花おもふ志賀の山越え
散る花を今日のまとゐの光にて波間にめぐる春のさかづき
雨そそぐ池のうきくさ風こえて波と露とにかはづ鳴くなり
花は散りぬいかにいひてか人またむ月だに洩らぬ庭のこずゑに
夏草のもとも拂はぬふるさとに露より上を風通ふなり
くもゐより立つる使ひに葵草いくとせかけつ賀茂の川波
うたたねの夢よりさきに明けぬなり山ほととぎす一聲の空