さまざまの花をばきくに分けとめて垣根に知らぬ霜枯れのころ
見し秋を何に残さむ草の原一つにかはる野邊のけしきに
風さむみ今日も霙のふるさとは吉野の山の雪解なりけり
芹川の波もむかしに立ちかへり深雪たえせぬ嵯峨のやまかげ
雲ふかき峰のあさげのいかならむ真木の戸しらむ雪のひかりに
清水もる谷のとぼそも閉ぢはてて氷をたたく峰の松風
山里のさびしさおもふ烟ゆゑ絶え絶えたてる峰の椎柴
冴ゆる夜にをしのふすまを重ね着て袖の氷を拂ひかねつつ
ひととせの儚き夢は覚めぬらむ三世の佛の鐘のひびきに
知らざりし我がこひくさや茂るらむ昨日はかかる袖の露かは
新古今集・恋
もらすなよ雲ゐる峰の初しぐれ木の葉はしたに色かはるとも
谷ふかみ遙かに人をきくの露ふれぬ袂よ何しをるらむ
忘れずよほのぼの人をみしま江の黄昏なりしあしのまよひに
たどりつる道に今宵は更けにけり杉のこずゑに有明の月
いけらばと誓ふそのひも猶来ずばあたりの雲を我とながめよ
よもぎふの末葉の露の消えかへり猶この世にと待たむものかは
からころも重ぬる契り朽ちずして幾夜の露を打ち拂ふらむ
忘れじの契を頼む別れかな空ゆく月の末をかぞへて
袖のなみ胸のけぶりは誰もみよ君が浮き名の立つぞ悲しき