和歌と俳句

藤原良経

六百番歌合百首

さまざまの花をばきくに分けとめて垣根に知らぬ霜枯れのころ

見し秋を何に残さむ草の原一つにかはる野邊のけしきに

風さむみ今日も霙のふるさとは吉野の山の雪解なりけり

芹川の波もむかしに立ちかへり深雪たえせぬ嵯峨のやまかげ

雲ふかき峰のあさげのいかならむ真木の戸しらむ雪のひかりに

清水もる谷のとぼそも閉ぢはてて氷をたたく峰の松風

山里のさびしさおもふ烟ゆゑ絶え絶えたてる峰の椎柴

冴ゆる夜にをしのふすまを重ね着て袖の氷を拂ひかねつつ

ひととせの儚き夢は覚めぬらむ三世の佛の鐘のひびきに

知らざりし我がこひくさや茂るらむ昨日はかかる袖の露かは

新古今集・恋
もらすなよ雲ゐる峰の初しぐれ木の葉はしたに色かはるとも

谷ふかみ遙かに人をきくの露ふれぬ袂よ何しをるらむ

忘れずよほのぼの人をみしま江の黄昏なりしあしのまよひに

たどりつる道に今宵は更けにけり杉のこずゑに有明の月

新古今集・恋
幾夜われ波にしをれて貴船川袖に玉散る物思ふらむ

いけらばと誓ふそのひも猶来ずばあたりの雲を我とながめよ

よもぎふの末葉の露の消えかへり猶この世にと待たむものかは

からころも重ぬる契り朽ちずして幾夜の露を打ち拂ふらむ

忘れじの契を頼む別れかな空ゆく月の末をかぞへて

袖のなみ胸のけぶりは誰もみよ君が浮き名の立つぞ悲しき