谷川の打ちいづる波に見し花の峰のこずゑになりにけるかな
尋ねてぞ花としりぬる初瀬山かすみのおくに見えし白雲
花なれや山のたかねの雲井より春のみ落とす滝の白糸
立田山をりをり見する錦かな紅葉し峰に花さきにけり
葛城の峰の白雲かをるなり高間の山の花さかりかも
比良の山はあふみのうみの近ければ波と花との見ゆるなるべし
さらにまた麓の波もかをるなり花の香おろす志賀の山風
秋はまた鹿の音つげし高砂の尾上の程に櫻ひとむら
明けわたる外山のこずゑほのぼのと霞ぞかをる宇治の春風
世の中に櫻にさける花なくば春てふころもさもあらばあれ
ここのへの花のさかりになりぬれば雲ぞくもゐのしるしなりける
たちよれば御階の櫻さかりなり幾世の春のみゆきなるらむ
わがやどを花にまかせてこのごろは頼めぬひとの下またれつつ
ながめくらす宿の櫻の花盛り庭のこかげに旅寝をぞする
誰となく待たるる人を誘へかし宿の櫻を過づる春風
都人いかなる宿をたづぬらむ主ゆゑ花は匂ふものかは
けふ来ずは庭にやあとの厭はれむ訪へかし人の花の盛りを
まどのうちにときとき花のかをりきて庭のこずゑに風すさぶなり
なにとなく春のこころに誘はれぬ今日しらかはの花のもとまで