今日もまた去年しをりせし山に来て契りしらるる花のかげかな
わが厭ふ春のやまもり思ひしれをらずば風の残すべきかは
かすみゆく宿のこずゑぞあはれなるまだ見ぬ山の花の通ひ路
はるばると我が住む方は霞にて宿かる花を拂ふ山風
あはれなる花のこかげの旅寝かな峰の霞の衣かさねて
むら鳥のしづ枝になるるけ近さに花に宿かる程ぞしらるる
待ちわびぬさらに人をや尋ねまし花ゆゑとてぞ来つる山路を
散らぬまに今ひとたびと契るかな今日もろともに花見つる人
厭ふべき同じ山路に分け来ても花ゆゑ惜しくなるこの世かな
しをりせで吉野の花や尋ねましやがてと思ふ心ありせば
花盛り吉野の峰や雪のやま法もとめしに道はかはれど
鷲のやま御法の庭に散る花を吉野の峰の嵐にぞみる
いづくにもさこそは花を惜しめども思ひいりたる深吉野の山
花やどる櫻が枝は旅なれや風たちぬればねにかへるらむ
散る花も世を浮雲となりにけり虚しき空を映す池水
色も香もこの世におはぬ物ぞとてしばしも花をとめぬ春風
花もみな憂き世の色とながむれば折あはれなる風の音かな
吹く風や空にしらする吉野山くもにあまぎる花のしらゆき
高砂の松に浦風かよふなり尾上の花のあたりなるらむ
浦風に花や散るらむ志賀のやま高嶺も沖も同じさざ波