和歌と俳句

藤原良経

花月百首

今日もまた去年しをりせし山に来て契りしらるるのかげかな

わが厭ふ春のやまもり思ひしれをらずば風の残すべきかは

かすみゆく宿のこずゑぞあはれなるまだ見ぬ山の花の通ひ路

はるばると我が住む方は霞にて宿かる花を拂ふ山風

あはれなる花のこかげの旅寝かな峰の霞の衣かさねて

むら鳥のしづ枝になるるけ近さに花に宿かる程ぞしらるる

待ちわびぬさらに人をや尋ねまし花ゆゑとてぞ来つる山路を

散らぬまに今ひとたびと契るかな今日もろともに花見つる人

厭ふべき同じ山路に分け来ても花ゆゑ惜しくなるこの世かな

しをりせで吉野の花や尋ねましやがてと思ふ心ありせば

花盛り吉野の峰や雪のやま法もとめしに道はかはれど

鷲のやま御法の庭に散る花を吉野の峰の嵐にぞみる

いづくにもさこそは花を惜しめども思ひいりたる深吉野の山

花やどる櫻が枝は旅なれや風たちぬればねにかへるらむ

散る花も世を浮雲となりにけり虚しき空を映す池水

色も香もこの世におはぬ物ぞとてしばしも花をとめぬ春風

花もみな憂き世の色とながむれば折あはれなる風の音かな

吹く風や空にしらする吉野山くもにあまぎる花のしらゆき

高砂の松に浦風かよふなり尾上の花のあたりなるらむ

浦風に花や散るらむ志賀のやま高嶺も沖も同じさざ波