雲の上はるかに照らす月影を秋の宮にて見るぞうれしき
新勅撰集・秋
ひとりねの夜寒になれる月みれば時しもあれや衣うつこゑ
濁る世もなほ澄む影ぞ頼もしき流れ絶えせぬ御裳濯の月
あさひさす春日の峰の空はれてその名残なる秋の夜の月
更科を心のうちに尋ぬれば都の月もあはれそひけり
待つ人も覚えぬものを真木の戸に嵐やたたく月を見よとて
秋ぞかし今宵ばかりの寝覚めかは心つくすな有明の月
憂き世とはいつもさこそは思へども心のたけを月にしりぬる
かき曇る心はいとふな夜半の月なにゆゑおつる秋の涙ぞ
なかなかに月の隈なき秋の夜はながめにうかぶ五月雨の空
厭ふ身も後の今宵と待たれけりまた来む秋は月もながめじ
憂き世いとふ心の闇のしるべかな我が思ふ方に有明の月
横雲の嵐にまよふ山の端に影さだまらぬしののめの月
もみぢ葉の散るにはれゆくすまひかな月うとかりしみやま隠れも
谷ふかき葎がしたの埋もれ水それにも月のひまもとめけり
むら雲のしぐれて過ぐるこずゑより嵐にはるる山の端の月
小夜ふかき嵐のおとに山さびて木の間の月の影のさむけさ
有明になりゆく月をながめても秋の残りをうち數へつつ
長月の有明の月の明け方を誰れ待つ人のながめわぶらむ
秋の色の果ては枯野となりぬれど月は霜こそ光なりけれ