しほかぜの与謝の浦松おとさえて月影よする沖つ白波
あはれいかに心あるあまのなかるらむ月影かすむ塩釜の浦
鳴海潟あらいそ波の音はして沖の岩越す月のかげかな
蟲明の瀬戸のしほひの明け方に波の月影とほざかるなり
おもひやる心にかすむ海山も一つになせる月のかげかな
広沢の池のおほくの年ふりてなほ月残るあかつきの空
猿沢の玉藻の水に月さえて池にむかしの影ぞ映れる
わがやどは姨捨山に住みかへつ都のあとを月やもるらむ
更科の月やはわれを誘ひこしたがすることぞ宿のあはれは
月やどる後の旅寝の笹枕いつ忘るべき夜半のけしきぞ
今宵たれすずの篠屋に夢さめて吉野の月に袖濡らすらむ
笹深き野中の庵に宿かりてつゆまどろまず見つる月かな
あたらしやも門田の稲葉ふく風に月影ちらす露のしらたま
月だにも慰めがたき秋の夜の心もしらぬ松の風かな
さびしさや思ひよわると月見れば心のそこぞ秋ふかくなる
奥山に憂き世はなれて住む人の心しらるる夜半の月かな
ひとりぬる閨の板間に風ふれて狭筵てらす秋の夜の月
たれきなむ今宵の月は見るやとてよもぎかしたの道をわけつつ
照る月も見る人からのあはれかな我が身ひとつの今宵ならねど
四方の海なみもしづかに澄む月の影かたぶかぬ君が御代かな