鐘の音の春を告ぐなるあけぼのにまづうちはらふ霜のさむしろ
まどの雪いけの氷も消えずして袖にしられぬ春のはつかぜ
新古今集
みよし野は山もかすみて白雪のふりにし里に春は来にけり
あさみどり松に霞はたつたやま森のしづくや氷とくらむ
こほりゐし水のしらなみ岩こえて清瀧川に春風ぞ吹く
春の色に都の空もかすみぬと鶯さそへ山おろしの風
鶯のこほりし涙こほらずばあらぬ露もや花に置くらむ
鶯の聲にほいくる松風は軒端の梅に吹かぬばかりぞ
ここのへや雲井の庭の竹のうちにあかつき深き鶯のこゑ
深草や鶉のとこは跡たえて春の里とふ鶯のこゑ
かすむよりみ山に消ゆる松の雪さくらにうつる春のあけぼの
みよしのは花のほかさへ花なれや真木たつ山の峰のしらくも
残りける都の春の光かな昔語りの志賀のはなぞの
山かげや花の雪ちるあけぼのの木の間の月に誰をたづねむ
ほととぎす我をば數にとはずとも今年になりぬ去年のふるこゑ
うちも寝ず待つ夜ふけゆくほととぎす軒にかたぶく月に鳴くなり
ほととぎす鳴く音や袖に通ふらむ露おもりぬる蝉の羽衣
たちばなの花散る里の庭の雨に山ほととぎす昔をぞとふ
ほととぎす聲たえだえに消えはつる雲路もつらき水無月の空