和歌と俳句

藤原良経

治承題百首

夢か猶ただ思ひ寝に見しことの床も枕もおもかはりせで

呉竹の葉末の霜のおきあかし幾夜すぐして節染めらむ

有明もしばしやすらへ今来むの人待ちえたる長月のすゑ

消えはてぬ後の契りを重ねずば今宵ばかりや袖の移り香

絞り来し袖もや干さむ白露の晩稲のいなば仮寝ばかりに

またも来む秋を頼むの雁だにも鳴きてぞかへる春のあけぼの

暮れを待つ空も曇らじ横雲の立ち別れぬる今朝のあらしに

やすらひに笹わくる朝の袖の露ゆふつげ鳥のとはばこたへむ

たちいでて心と消ゆるあけぼのに霧のまよひの月ぞともなる

今はとて涙の海に舵をたえ沖をわづらふ今朝の舟人

忘るなよとばかりいひて別れにしそのあかつきや限りなるらむ

かけとめぬ床のさむしろ露おきて契らぬ月は今も夜がれず

うばたまの夜のちぎりは絶えにしを夢路にかかる命なりけり

見し人のかへらぬ宿は跡もなしただ朝夕の葛のうらかぜ

うつろひし心の花に春暮れて人もこずゑに秋風ぞ吹く

四方の海ひさしくすめる春にあひて蓬が島の宿もおもはじ

ふるさとに千代へてかへる葦鶴や変はらぬ君が御代にあふらむ

よよのはる秋のみやびと折りかざせ雲居の庭に萩のさかりを

松風を竹のまがきに隔てても千歳に千代の続く宿かな

末までとやそうぢびとは祈りけり古き流れの絶えぬ川波