夢か猶ただ思ひ寝に見しことの床も枕もおもかはりせで
呉竹の葉末の霜のおきあかし幾夜すぐして節染めらむ
有明もしばしやすらへ今来むの人待ちえたる長月のすゑ
消えはてぬ後の契りを重ねずば今宵ばかりや袖の移り香
絞り来し袖もや干さむ白露の晩稲のいなば仮寝ばかりに
またも来む秋を頼むの雁だにも鳴きてぞかへる春のあけぼの
暮れを待つ空も曇らじ横雲の立ち別れぬる今朝のあらしに
やすらひに笹わくる朝の袖の露ゆふつげ鳥のとはばこたへむ
たちいでて心と消ゆるあけぼのに霧のまよひの月ぞともなる
今はとて涙の海に舵をたえ沖をわづらふ今朝の舟人
忘るなよとばかりいひて別れにしそのあかつきや限りなるらむ
かけとめぬ床のさむしろ露おきて契らぬ月は今も夜がれず
うばたまの夜のちぎりは絶えにしを夢路にかかる命なりけり
見し人のかへらぬ宿は跡もなしただ朝夕の葛のうらかぜ
うつろひし心の花に春暮れて人もこずゑに秋風ぞ吹く
四方の海ひさしくすめる春にあひて蓬が島の宿もおもはじ
ふるさとに千代へてかへる葦鶴や変はらぬ君が御代にあふらむ
よよのはる秋のみやびと折りかざせ雲居の庭に萩のさかりを
松風を竹のまがきに隔てても千歳に千代の続く宿かな
末までとやそうぢびとは祈りけり古き流れの絶えぬ川波