和歌と俳句

藤原良経

六百番歌合百首

与謝の海の沖つしほかぜ浦に吹けまつなりけりと人にきかせむ

吉野川はやき流れを堰く岩のつれなきなかに身を砕くらむ

ふるさとに見しおもかげも宿りけり不破の関屋の板間もる月

恋ひわたる夜半のさむしろ波かけてかくや待ちけむ宇治の橋姫

人まちし庭の浅茅生しげりあひて心にならす道芝の露

新古今集・恋
おもひかねうち寝る宵もありなまし吹きだにすさべ庭の松風

時しもあれ空飛ぶ鳥のひとこゑも思ふ方より来てや鳴くらむ

この頃の心の底をよそに見ば鹿啼く野邊の秋の夕暮

つらからむなかこそあらめ荻原や下まつむしの聲をだにとへ

笛竹の聲のかぎりを盡しても猶うきふしや世々に残らむ

君ゆゑも悲しきことの音はたてつ子を思ふ鶴に通ふのみかは

増鏡うつしかへけむ姿ゆゑ影たえはてし契りをぞ知る

うちとけて誰に衣を重ぬらむまろがまろねも夜深きものを

ひとまつと荒れ行く閨のさむしろに拂はぬ塵を拂ふ秋風

誰となく寄せては返へる波まくら浮きたる舟の跡もとどめず

ひとよのみ宿かる人の契りとて露むすびおく草枕かな

続後撰集・恋
しほかせの吹きこすあまの苫ひさし下に思ひのくゆるころかな

恋路をば風やは通ふ朝夕に谷の柴舟ゆきかへれども

年ふかき入江の秋の月みても別れ惜しまぬ人や悲しき