ももしきや玉のうてなに照る月の光を得たる秋の宮人
天の下たのしき御代は烟たつ民のかまどのけしきなりけり
わが思ふ人だに住まばみちのくのえびすの城も疎きものかは
まばらなる不破の関屋の板びさし久しくなりぬ雨もたまらで
ふるさとは浅茅がすゑになりはてて月に残れる人のおもかげ
つれもなき人やは待ちし山里は軒のしたくさ道もなきまで
山おろしの穂波をよする夕暮れに袖こそ濡るれ山田もる庵
わが宿は野路の笹原かきわけてうち寝るしたに絶えぬ白露
夕凪に波間のこじまあらはれてあまの伏せ屋を照らす藻鹽火
山伏の岩屋の洞に年ふりて苔にかさぬる墨染の袖
難波潟まだうら若き葦の葉をいつかは舟の分けわびなまし
小夜衣こは世に知らぬ匂ひかなあやめをむすぶ夢の枕に
秋の夜に竹うちそよぐ風のおとよ花ありとても厭はざらまし
この暮れにおとずべかりし人は来でよもぎが杣に秋風ぞ吹く
移し植うる庭の小萩の露雫もとの野原の秋やこひしき
女郎花なびきふす野の真葛原したのうらみは風ぞ知るらむ
ふるさとは風のすみかとなりにけり人やは拂ふ庭の荻原
くりかへし行く秋風にそなれきて色もかはらぬつづらかな
谷川の岩ねの菊や咲きぬらむ流れぬ波の岸にかかれる
しげき野は蟲のねながら霜枯れて昔のすすき今もひともと