玉くしげあくれば夢のふたみがた二人やそでの浪にくちなむ
あらはれて袖の上行く名取川いまはわが身にせくかたもなし
おもひいづる後のこころにくらぶ山よそなる花の色はいろかは
いかにせむ浦のはつ島はつかなるうつつの後は夢をだに見ず
たのめおきしのちせの山のひとことやこひを祈りの命なりけむ
たづぬれば思ひしみわの山ぞかしわすれねもとのつらき面影
里の名を身にしる中のちぎりゆゑまくらに越ゆる宇治の川浪
やすらひにいでけむ方もしら鳥のとば山松のねにのみぞ鳴く
しるべさよむしあけのせとの松の風ほか行く波のしらぬ別れに
形見こそあだのおほ野の萩の露うつろふ色はいふかひもなし
袖のうらかりにやどりし月草の濡れての後を猶やたのまむ
忘れ貝それもおもひの種たえて人を見ぬ目のうらみてぞぬる
命だにあらばあふせを松浦川かへらぬ浪もよどめとぞおもふ
槙の葉の深きをすての山におふる苔の下まで猶やうらみむ
続後撰集・恋
忘られぬままのつぎはし思ひねにかよひし方は夢に見えつつ
時のまも人をこころにおくらさで霞にまじる春の山もと
山路ゆく雲のいづこの旅まくら臥すほどもなく月ぞ明け行く
草の庵やくるる夜ごとの秋風にさそはれわたる旅のつゆけさ
しきたへのころもでかれていくかへぬ草を冬野の夕ぐれの空
面影にあらぬむかしもたちそひて猶しののめぞ旅は悲しき