和歌と俳句

藤原定家

内大臣家百首

玉くしげあくれば夢のふたみがた二人やそでの浪にくちなむ

あらはれて袖の上行く名取川いまはわが身にせくかたもなし

おもひいづる後のこころにくらぶ山よそなる花の色はいろかは

いかにせむ浦のはつ島はつかなるうつつの後は夢をだに見ず

たのめおきしのちせの山のひとことやこひを祈りの命なりけむ

たづぬれば思ひしみわの山ぞかしわすれねもとのつらき面影

里の名を身にしる中のちぎりゆゑまくらに越ゆる宇治の川浪

やすらひにいでけむ方もしら鳥のとば山松のねにのみぞ鳴く

しるべさよむしあけのせとの松の風ほか行く波のしらぬ別れに

形見こそあだのおほ野の萩の露うつろふ色はいふかひもなし

袖のうらかりにやどりし月草の濡れての後を猶やたのまむ

忘れ貝それもおもひの種たえて人を見ぬ目のうらみてぞぬる

命だにあらばあふせを松浦川かへらぬ浪もよどめとぞおもふ

槙の葉の深きをすての山におふる苔の下まで猶やうらみむ

続後撰集・恋
忘られぬままのつぎはし思ひねにかよひし方は夢に見えつつ

時のまも人をこころにおくらさで霞にまじる春の山もと

山路ゆく雲のいづこの旅まくら臥すほどもなく月ぞ明け行く

草の庵やくるる夜ごとの秋風にさそはれわたる旅のつゆけさ

しきたへのころもでかれていくかへぬ草を冬野の夕ぐれの空

面影にあらぬむかしもたちそひて猶しののめぞ旅は悲しき