和歌と俳句

新薬師寺

奈良の十二神将剥げ尽せり 漱石

或る門のくづれて居るに馬酔木かな 秋櫻子

野茨のはびこり芽ぐむ門を見つ 秋櫻子

簷の反り春あけぼのに来てあふぐ 秋櫻子

扉のひとついたくぬれにし春惜む 秋櫻子

麦青む新薬師寺へ径いくつ 楸邨

猫柳奈良も果なる築地越し 楸邨

啓蟄や雲を指すなる仏の手 楸邨

啓蟄や指反りかへる憤怒仏 楸邨

草萌ゆる憤怒の目路の千余年 楸邨

啓蟄や簷に嘴摺る大鴉 楸邨

白藤の花蔭にふむその落花 草城

立ちつくし白藤の香はありにけり 草城

花つつじあやにくぐもり鳴くは蟇 草城

春陰の階を金堂へわがのぼる 草城

わが影をひき春陽の階を降る 草城

わがひとりさまよへば一つ紅椿 草城

紅葉照り伐折羅大将生きてをる 青畝

大和美しみぞれ耕馬を眼にせずば 多佳子

またたくは燃え尽きる燭凍神将 多佳子

寒燈を当つ神将の咽喉ぼとけ 多佳子