和歌と俳句

阿波野青畝

紅葉の賀

みちのくの馬どころより年始状

鬼は外主なかなか帰宅せず

恋猫とはやなりにけり鈴に泥

潮騒のものすさまじく椿咲く

ねはん図の混んで生きとし生けるもの

天城より水迸り山葵咲き

木瓜の雨草木瓜の雨吹き降りす

かの岩をみはめしの立石寺

花に病む汝の心をうべなひぬ

わが旅は信夫の花をしんがりに

人違ひされ親しまれ花篝

花烏賊のいでゐる息の墨の泡

冠の毛発止と立てて囀れり

さ山吹ところどころに濃山吹

わが袖に君が袖にと馬酔木ゆれ

舟そぞろ大手毬ゆれ小手毬ゆれ

苗代にあやめぐさ咲く十二橋

伊達の桑信夫の桑に線路あり

みよしののみやまつつじの中の滝

太子廟松の花粉を漲らし

雨雲と卯浪のあひだ須磨ほのと

一つ葉や清明の滝懸りたる

字ならびのおもしろくなる夏書かな

燈にかざし鹿の透きたる奈良団扇

炎天の暗き山家が落ちつきて

かはす身の明るさ暗さ熱帯魚

後村上の朝をし思ふ村端居

てのひらをかへさばすすむかな

踊子となるくずのはの子供かな

激流に魚介押さるる走馬燈

松の必ず萩にやどりたる

鈴虫の音をくらべむと目をつむる

曼珠沙華佛は首失はれ

すずなりに生らして奈良渋し

柿の皮干してくるしき暮らしかと

紅葉照り伐折羅大将生きてをる

大嘗会御用に建てし酒の蔵