和歌と俳句

涅槃 寝釈迦

おねはんの忘れ毬一つ日暮かな 犀星

金堂の櫺子ぞくらき寝釈迦かな 秋櫻子

諸鳥の地に嘆かへり涅槃像 秋櫻子

見るうちにものあらはれ来涅槃像 虚子

あらかんの口開きそろひ涅槃像 青畝

まんなかにごろりとおはす寝釈迦かな 草城

涅槃像かけてあとさき壁のきず 泊雲

葛城の山懐に寝釈迦かな 青畝

お涅槃の満月寒きお山かな 月二郎

涅槃図にまやぶんにとぞ読まれける 夜半

大いなる柱で見えぬ寝釈迦かな 青畝

おん顔の三十路人なる寝釈迦かな 草田男

かんばせのゆたかに在す寝釈迦かな 月二郎

大顔をむけたまふなる寝釈迦かな 夜半

あばら骨露はに釈迦の寝ねませり 誓子

まことにも獅子の愁や涅槃像 喜舟

灸寺そびらに涅槃かゝりけり 喜舟

田螺寺げんげん寺の涅槃かな 喜舟

旅人の笠脱ぎおがむ涅槃像 淡路女

彫みある寝釈迦のまとひたまふもの 夜半

泣顔のくしやくしや誰や涅槃像 喜舟

山寺の松のみどりの涅槃かな 喜舟

涅槃会や大雄宝殿開放つ 喜舟

獣に青き獅子あり涅槃像 夜半

日照るとき魚介交り来涅槃像 青畝

哭いてゐる舌が真赤で涅槃像 青畝