伶人も朝寒の洟かめりけり
砧の灯芋の嵐にいきいきと
入相の鐘のあとなる良夜かな
白露にけしきかはりぬ天の川
太白の照るばかりなり露時雨
凹みたる藁屋の上の雁の空
草の実をゆひ栞あり下り鮎
露膨れむすびこぼるる零余子かな
烏瓜老の手力あまりけり
魂ぬけの小倉百人神の旅
みささぎを衛る祖父の外套かな
霜除やこころにくくも蝶の影
方丈の風邪嗄れたまふ一偈かな
探梅やみささぎどころたもとほり
夕づつの光りぬ呆きぬ虎落笛
梅嫌果ててゐるなり虎落笛
時雨来と屏風の歌仙隠りけり
丹頂の相寄らずして凍てにけり
梭の手の染みし娘ぞ三十三歳
たもとほる寒鯉釣の一人かな
病む人に春の曙自ら
曙の早き畦塗立てりける
八重葎おもひおもひに末黒かな
治聾酒に酔ひかたまけて老母かな
嬌柳やうやうにして静りし
婆の箸お粥すずしくまゐるかな
陋巷の裏に表に菖蒲かな
海鰻売りの居村まはりて祭かな
汗ばみし面をぬぐふ御成かな