和歌と俳句

阿波野青畝

万両

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

からかさやでで虫の垣すれ出づる

玉垣や花にもまさるべに若葉

吹きまろぶ病葉あそぶ檜皮屋根

朝寒や擂鉢ふせし木の間の木

天の川見えずなりたる夜長かな

落し水跣の下にきこえけり

秋晴やうしろ見せたる峰社

宵も早籬陰りけり十三夜

星のとぶもの音もなし芋の上

やどり木もとりつき騒ぐ野分かな

野分吹く水をはねたり蓼の上

の谷とうんと銃の谺かな

一つ向ふさがりや沼の小田

鶺鴒の吹分れても遠からず

鶺鴒や羽づくろう腋しらしらと

一本の塀きんかんの数しらず

古坪や赤鬼灯のよこたはる

お命講かかはりなしや余所の寺

炉話の鼻をくすぐる嚏かな

侘助のはしり賢し壺の如

たふやかに年寄耳や宝舟

傀儡の頭がくりと一休

春寒や道ほそぼそと阿弥陀堂

春寒し水取のあと二日ほど

すぐ乾くあくび泪や壬生念仏

お甘茶や一人貌なる疲れ尼

風吹いて又ちろちろと畦火かな

簀の中に蝶をなぶりて茶摘かな

雛壇や閏遅れに百姓家

白酒やなでてぬぐひし注零し