和歌と俳句

阿波野青畝

万両

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壺一つのりたる棚の新茶かな

長き柄の杓ながれたるかな

はしりもて杓しりぞきしかな

ほろびたる礎のべの蟻地獄

みちをしへ止まるや青く又赤く

みちをしへ川原をふめば揚がりけり

蚊見えて大きかりけるみちをしへ

なにがしの野べのおくりやみちをしへ

ぶらさがる厩の蜘蛛の太鼓かな

鹿垣を見つつもぞ行く有馬かな

鹿垣のずり破れたつ山路かな

はし借りて腰かけてゐる無月かな

ガラス越し雨がとびつく無月かな

露けしと皆驚いてあるきけり

秋の山摩崖の顔の並びをり

時々にしわみて水の澄みにけり

秋の水うつりしりぞく藁家あり

一斉に顔かくしけるかな

ゆるやかに向き倣ひゆくかな

葉末なるも顔をかくすなり

初紅葉遮るものにつづりけり

初紅葉一人なるや雨のあと

玉芒住みなす様をかくしけり

みちすがら鬼灯ともる垣根かな

哀れなる虫鬼灯の灯かな

龍田まで足の序や神無月

みちづれと訣れて四方の寒さかな

万両や詞すくなき俳句会

座について庭の万両憑きにけり

万両をたまたまつつむ茶の烟

香るなる居村の飾買ひにけり

かりそめに住みなす飾かかりけり