野村喜舟
如月の仏足石を拝すかな
立春の慈姑の味を称へけり
永き日や水に蝕はるゝ橋柱
永き日や巳の刻よりの眠り猫
うらゝかや珊瑚が目立つ貢物
まことにも獅子の愁や涅槃像
灸寺そびらに涅槃かゝりけり
田螺寺げんげん寺の涅槃かな
折本のお経拾ひし彼岸かな
囀や椋の梢のまばゆきに
乙鳥や本町石町油町
越後屋ののれんの紺の燕かな
乙鳥は金看板をよごすかな
七堂の風鐸ぬすむ蛙かな
極楽の蓮華や唄ふ蛙かな
風騒ぐ水田の浪の田螺かな
花を詠む鳳凰堂の大臣かな
尼寺に海棠紅き浮世かな
海棠や化粧の水を筧から
壺菫伝通院の墳にかな
早蕨や牛は乳房を美しく
早蕨や御所のお池の中島に
早蕨や狐の穴もうらゝかに