和歌と俳句

室生犀星

春雨や明けがた近き子守唄

枯草の中の賑ふ春の雨

睡たさよ筆とるひまの春の雨

麗かな砂中のぼうふ掘りにけり

花杏はたはた焼けばかすみけり

陽炎や手欄こぼれし橋ばかり

葱の皮剥がれしままにかぎろひぬ

昼深く春はねむるか紙しばゐ

石蕗の茎起きあがり水ぬるむ

森をぬく枯れし一木や囀り

屋根石の苔土掃くや帰る雁

なれもうつつを鳴くものか

頬白や耳からぬけて枝うつり

鮴のぼる瀬すぢは花の渦となり

鮴の串日はみんなみにかたよれり

の腹やさしくは見る歯朶の上

おねはんの忘れ毬一つ日暮かな

凧のかげ夕方かけて読書かな

凧の尾の色紙川に吹かれけり

若くさの香の残りゆくあはゆきや

ねこ柳のほほけ白むや雛の雨