春立や坂下見ゆる垣のひま
春立や蜂のはひゐる土の割れ
竹の風ひねもすさわぐ春日かな
春の日のくれなんとして豆にえぬ
春の夜の乳ぶさもあかねさしにけり
淡雪の寺々めぐりやつれけり
春もやや瓦瓦のはだら雪
生きのびし人ひとりゐて冴え返る
筆えらぶ店さきにゐて冴え返る
枯枝のさきそろひゐて冴え返る
枝のとがりにさはるにあらぬ余寒かな
ひそと来て茶いれる人も余寒かな
おほきにといひ口ごもる余寒かな
春寒や葱の芽黄なる籠の中
春寒や渡世の文もわきまへず
木いちごの芽のさき枯れて春寒き
苗藁をほどく手荒れぬ春の霜
残雪やからたちを透く人の庭
藪の中の一町つづき残る雪
石斑魚に朱いすぢがつく雪解かな
炭俵に烏樟匂ひ雪解かな