和歌と俳句

涅槃 寝釈迦

蛇の円かなる座や涅槃像 夜半

童女ゐて頬杖をして涅槃像 夜半

涅槃像女人は袖に涙かな 淡路女

をりからの望月くらし涅槃変 淡路女

かうかうと風の音ある寝釈迦かな 草堂

雨雲に鐘のこもらふ寝釈迦かな 草堂

昏き雨四簷をたゝく寝釈迦かな 草堂

足のうらそろへ給ひぬ涅槃像 茅舎

土不踏ゆたかに涅槃し給へり 茅舎

誰が懐炉涅槃の足に置きわすれ 茅舎

寝釈迦見るさきゆく僧の坐りけり 立子

日のさして今おろかなる寝釈迦かな 耕衣

たてまつるばらを嗅ぎ居る涅槃かな 耕衣

露を飲む瑠璃鳥や涅槃の楢林 耕衣

竹の葉のさしちがひ居る涅槃かな 耕衣

林泉に暮雪の白き涅槃かな 草城

大兵におはしますなる寝釈迦哉 鳳作

豊かなる乳見え給ふ寝釈迦哉 鳳作

麗はしの朱ケのしとねの寝釈迦哉 鳳作

涅槃像双樹の花のこぼれたれ 鳳作

くまもなき望の光の寝釈迦哉 鳳作

女の香わが香をきいてゐる涅槃 鷹女

蹠に地ぬくしねはん近づける 鷹女

涅槃来る女にましろのたなごころ 鷹女

ねはん会の近くて重き髪と知る 鷹女

一の字に遠目に涅槃したまへる 青畝

お蝋燭涅槃の仏陀いきいきと 青畝

ともしつぐ燈にさめがたき寝釈迦かな 蛇笏

お涅槃に女童の白指触れたりし 蛇笏

涅槃けふ吾子の唱ひし子守歌 草田男

涅槃図を舁きつつ廊を僧来る 青畝

涅槃図の穢土も金泥ぬりつぶし 青畝