人の子に美醜はありて寒明けぬ
けものらの耳さんかくに寒明けぬ
人の子に白玉椿咲きいでぬ
椿昏れ女あり神を懼れける
春愁の二つのいのち相寄りぬ
烏蝶あはれ啼かねば昏れてしまふ
蒲公英昏れ蟇暮れこころ哭いてゐる
春昼のくらげを食みしかば黙す
十本の指ありげんげ摘んでゐる
愁ひ身にあれば紫雲英の野は白し
たにし田の田螺と聴いてゐるひばり
寂しさよ昏れて田螺の吐く水泡
をみな子を生ままく欲れり 花のもと
髪濃ゆく吾子は生ままし朝ざくら
涅槃来る女にましろのたなごころ
ねはん会の近くて重き髪と知る
つはものの雄叫ぶ文と来し二月
しらじらと二月荒浪吾を喚べる
詩に痩せて二月渚をゆくはわたし
春もづくほろほろうまし灯が幽し
魚臭き濱のたんぽを掌に摘みぬ
春愁は皮はぎを食ひをこぜを焼き
沈丁のにほひ兵馬を行かしむる
沈丁に兵馬の響きいまはなし
地階の灯明るし春の林檎買ふ