花買はな雪解け窓を押し開き
蟹食うて春の愁いはあらざりけり
憂鬱日沈丁の鉢を近よせず
沈丁やをんなにはある憂鬱日
日の昏れてこの家の躑躅いやあな色
春宵のくらげは人と来て食べぬ
二月来るながき眉毛を吾がひけば
しんしんと草萌え人等日を経たる
おたまじやくしの生るる日の字を書き並べ
みんな夢雪割草が咲いたのね
春愁の世にかほばせのほそくあり
耳二つ雲雀を聴いてゐるじつと
健康なおのれを得たり雲雀野に
うろくづにゆふべがくるよひばりにも
平凡なをんなに咲きぬ茱萸の花
そこばくの憂ひをいゆき陽炎に
空漠とてのひらはあり蝌蚪生まれ
櫻咲き吾が生ままくの子をおもふ
女の香わが香をきいてゐる涅槃
蹠に地ぬくしねはん近づける
たなぞこの子の掌ぬくとしげんげ咲く
げんげ田はまろし地球のまろければ
摘めど摘めどげんげ尽きねばかなしかり
おもふことみなましぐらに二月来ぬ
死もたのし二ン月穹の蒼き日は