和歌と俳句

三橋鷹女

春林檎少女青年と来て買へり

東風の街窓おきて瑪瑙を商へる

春燈は瑪瑙を玻璃の中に生めり

くりかへし如月はよむ兵の文

二ン月の雲濃し兵の妻を訪ふ

二ン月の心に入り来つはものら

眼ふたげば風邪熱春のゆめを揺る

夜はかなし淡雪明り瞳にぞ馴れ

こころ堪ふ古りしげんげの畦をゆき

うつし世に人こそ老ゆれげんげ咲く

沈丁に軍馬と兵と疲れ過ぐ

春風は吹きけり裏町に児等あふれ

ものの芽のはや大いなり春の闇

ものの芽を赤しと思ふ春の闇

咲いて人にさみしきうなじがある

咲いて海光ひとの額に消ゆ

雲雀舞ひ列車は兵をあふれしむ

雲雀鳴くまぼろしは濃き蒼穹に

ばんざいのこゑ湧き沈み野は雲雀

春愁の真昼は濃ゆき文字を書く

焼山の陽はまぶしかり母と子に

木瓜赤く焼山に陽のかぎろはず

人ひとりおもふに芽立ち早きかな

春塵の遠きかなたに戦へり

まなぶたに花ちる朝は字を習ふ