春林檎少女青年と来て買へり
東風の街窓おきて瑪瑙を商へる
春燈は瑪瑙を玻璃の中に生めり
くりかへし如月はよむ兵の文
二ン月の雲濃し兵の妻を訪ふ
二ン月の心に入り来つはものら
眼ふたげば風邪熱春のゆめを揺る
夜はかなし淡雪明り瞳にぞ馴れ
こころ堪ふ古りしげんげの畦をゆき
うつし世に人こそ老ゆれげんげ咲く
沈丁に軍馬と兵と疲れ過ぐ
春風は吹きけり裏町に児等あふれ
ものの芽のはや大いなり春の闇
ものの芽を赤しと思ふ春の闇
藤咲いて人にさみしきうなじがある
藤咲いて海光ひとの額に消ゆ
雲雀舞ひ列車は兵をあふれしむ
雲雀鳴くまぼろしは濃き蒼穹に
ばんざいのこゑ湧き沈み野は雲雀
春愁の真昼は濃ゆき文字を書く
焼山の陽はまぶしかり母と子に
木瓜赤く焼山に陽のかぎろはず
人ひとりおもふに芽立ち早きかな
春塵の遠きかなたに戦へり
まなぶたに花ちる朝は字を習ふ