和歌と俳句

三橋鷹女

梅花ころげ合ふ古里の皿囃子

青沼となる青い野の青すみれ

沖近くなる痩身のかざぐるま

や海の平らを死者歩く

耳に火の針散るだけの桜散り

皿を重ねて春山へ遁げ入れり

蕋に雨うつむき椿うつむいて

墓原や椿咲くより散りたがる

椿一重死は生き生きと蕋の中

頭に椿夜は出て踊る石佛

こめかみに土筆が萌えて児が摘めり

老牛に道ゆづられ陽炎へり

千輪のの囁きいのち飛ぶ

佛滅や老牛の尾に蝶生まれ

仰向いて雲の上ゆく落椿

や鶴にとさかのなきことも

橋上に陽が墜ち風のかざぐるま

鳥雲に濡れてはかわく反り梯子

椿落つむかしむかしの川ながれ

丘の半日かげろひやまぬ土饅頭

菜畑の黄に染まらんと浪がしら

うららかや森を漕ぎ出し軟体魚

花菜より花菜へ闇の闇ぐるま

連翹の夜毎黄が濃し何かある

垂れてこの世のものの老婆打つ

ひた歩む老婆びつしり白すみれ

をちこちに死者のこゑする蕗のたう