和歌と俳句

吉武月二郎

鶯の囮につきし二月かな

青麦や畠の中の夜学校

山伏の貝吹き通る焼野かな

や鳥居の内の旅籠町

菜の花に風呂焚く壬生の踊衆

雁風呂や雨こぼれ来て潮平ら

住吉の松の花ちる苗田かな

木の芽伸ぶ如く生活面白し

独活掘りのまたつかまへぬ兎の子

白酒や蘇鉄の月に女来る

春雷や花散りかかる太柱

種蒔くに空深く鳴く雲雀かな

海棠や縁にこぼれて傘雫

苗代の灯に靄下りし深夜かな

子を連れてしばらく拾ふ 椿かな

住み侘びて花の木の間の夕まぐれ

大松に吹かれよどめるかな

初花に夜を立ち出でし主かな

踏青や風に向ひて懐手

妻や子に看られて病める弥生かな

春昼や答へありたる外厠

地に下りて浮足踏める仔猫かな

枯葎二月の雪を沈めたる

朗々と山水迅し谷の

春寒や二つ連れだつホ句の霊

白脚絆洗ひ栄えして春の旅

土筆野阿蘇を要に左右の山

花見衆の後ろについて詣でけり

麦踏にさつと移りし暮色かな

郷国の古雪を踏む墓参かな

谷の三軒ぎりの月夜にて

畦塗りの雨にかくれてゐたりけり

お涅槃の満月寒きお山かな

旅人もまじりてそそぐ甘茶かな

かんばせのゆたかに在す寝釈迦かな

杭たてて春の日影を置くところ

春月や宮居の前の波がしら

春暁や神のごとくに霊のかげ

春の雲荼毘の煙を染めてゆく

囀りの夕山くらし骨拾ひ

弔辞読む眼に春日影おとろふる

弥陀の道てらてらうすき春日かな

春泥や和子の抱ける壺仏

奥津城や顧みすれば夕霞

如月や雪のる杉の花ざかり

阿蘇の煙たなびく余寒日和かな

人の世の月日を惜しむかな

脇堂の泊り遍路や花の雨

行春や娘の届けたる糧の足し

まだ先に霞める凧もありにけり

惜春の遠き展墓に妹と在り

春寒や身にかかはりし忌つづき

暑うして奥嶺も花の古びたる

花を見る命はかなくなりにけり

道のべにみづく墓あるかな

春浅き市にもとむる墓石かな

羅漢堂春の松毬ころげたる

春めくと指をよごしぬ土塊に