和歌と俳句

吉武月二郎

舟宿にどやと来て寝る蚊帳かな

雷晴や御油赤坂の祭の灯

夏空や廃れて高き煙出し

串魚を干し忘れめや朝の

夜清水を汲む傘に飛ぶかな

旱雲兀山越ゆる暑さかな

潮汲の眼に松遠き暑さかな

丘の家に日しづむ海や麦むしろ

中天の陽をあふち撲つかな

翅を澄ませて落ち来し蝶や百合の上

手伝うて下すや酒機嫌

松影や夕栄え着なす白重

麦秋やよそよそしくも昼寝僧

夏夕や草屋根に飛ぶ石叩き

病人に仕へて古りし日傘かな

立ち寄ればあたり賑はし誘蛾燈

翠巒にかかる暮靄田を植ゑし

白重ね夫人たまたま夜の卓に

梅雨雲やありとも見えぬ阿蘇を指す

打水や知らぬ葬列ながながと

大屋根に出でたる月や麦の秋

瓜番や軒に吊つたる小提灯

夏草や後に消えし影法師

妹とまたも仮寓や秋どなり

誘蛾燈灯し合うたる門田かな

短夜の月を見て来ぬ水前寺

花独活に山雲とべり雨の中

白雲や漕ぎつれ競ふ鰹舟

後ろより髪ほめてゐるかな

起し絵や淡き嫉妬の消えかはす

たそがれやぞろりと発ちし祭客

梢より蛍下り来ぬ麦筵

提灯にあかつき近し早苗取

田植唄きこえてあそぶ寺門かな

すててゆくかりに伏家や五月雨

蝉とりの友が誘へば泣くばかり

さからはぬみとり苦労の暑さかな

とりいでて団扇も去年の匂ひかな

月見草夜潮あそびの人通ふ

初夏の松風に棲む灯かな

炎天の涛に照られて月消ゆる

いくたびも山彦かへす夕焼かな

雲涼し窟をながるる菊池川

優曇華をみそむるこれの眼鏡かな

藻刈舟石の錨を落しけり

径芝の露とろとろと夏木立