やまゐもて すれる衣の ながければ ながくぞわれは 神につかへむ
春くれば くさきに花の 咲くほどは ふりくる雪の こころなりけり
きのふより をちをばしらす ももとせの 春のはじめは けふにぞありける
もとよりの 松をばおきて けふはなほ おきふし春の 色をこそみれ
山里に 住むかひあるは 梅の花 見つつ鶯 きくにぞありける
忘らるる 時しなければ 春の田を かへすがへすぞ 人は恋ひしき
あしひきの 山をゆきかひ 人知れず おもふこころの こともならなむ
散る花の もとに来つつぞ いとどしく 春の惜しさも まさるべらなる
いづれをか しるしと思はむ 三輪の山 みえとみゆるは すぎにざりける
ゆくがうへに はやくゆけこま 神垣の 三室の山の やまかづらせむ
けふもまた のちも忘れじ しろたへの 卯の花さける やどと見つれば
やまざとに たびね夜にせし ほととぎす こゑききそめて ながゐしつべし
時すぎば 早苗もいたく おいぬべし 雨にも田子は さはらざりけり
夏衣 薄きかひなし 秋まてば 木の下風も やまず吹かなむ
大空に あらぬものから 川上に 星とぞ見ゆる 篝火のかげ
ひとしれず 空をながめて 天の川 波うちつけに ものをこそおもへ
かりほにて 日さへ経にけり 秋風に わさだ雁がね はやも鳴かなむ
みな人も 無きやどなれば 色ごとに ほかへうつろふ 花に鹿なく
さを鹿や いかがいひけむ 秋萩の にほふ時しも 妻をこふらむ
散りぬべき 山の紅葉を 秋霧の やすくも見せず たち隠すらむ
山路にも 人やまどはむ 川霧の たち来ぬさきに いざ渉りなむ