和歌と俳句

紀貫之

前のページ< >次のページ

おなじ色に 散りしまがへば さくら花 ふりにし雪の かたみとぞみる

松をのみ ときはとおもへば 世とともに 流るる水も みどりなりけり

やな見れば かはかぜいたく 吹くときぞ 波の花さへ 落ちまさりける

雨ふると ふく松風は きこゆれど 池のみぎはは まさらざりけり

花の色は あまた見ゆれど 人知れず 萩のしたばぞ ながめられける

ふく風に なびく尾花を うちつけに まねく袖かと たのみけるかな

もみぢ葉の ぬさとも散るか 秋はつる 立田姫こそ かへるべらなれ

色そめぬ ものならねども 月影の うつれるやどの 白菊の花

しろたへに のふれれば 小松原 色のみどりも かくろへにけり

梅の花 をりしまがへば あしひきの 山路の雪の おもほゆるかな

春の色は まだ浅けれど かねてより みどり深くも 染めてけるかな

風ふけば かたもさだめず 散る花を いづかたへゆく 春とかはみむ

藤の花 もとより見ずば むらさきに 咲ける松とぞ おどろかれまし

人もみな かづらかざして ちはやふる 神のみあれに あふひなりけり

あやめ草 ねながき命 つげばこそ けふとしなれば 人のひくらめ

おほぬさの 川の瀬ごとに 流れても ちとせの夏は 夏祓へせむ

ちとせ経と わがきくなべに 葦鶴の なきわたるなる こゑのはるけさ

いつとても 人やは隠す はなすすき などか秋しも 穂には出づらむ

秋ごとに 露はおけども 菊の花 人のよはひは くれずぞありける

みちすらに しぐれにあひぬ いとどしく 干しあへぬ袖の 濡れにけるかな