うつろはぬ色をかぎりにみむろ山時雨も知らぬよを頼むかな
ちりつもる枕もしらず袖朽ちぬはらひなれたる夜床ならねば
もろともに見し夜の月をかごとにて空に心のゆくへ待つとも
音にたてぬ思ひに燃えし秋の夜もまだかばかりの露はしぼらず
明けにけりかざして出づる山かづら人も見るべき光ばかりに
かきすさぶ藻鹽のけぶりとだえしてあはれを残す浦の夕風
蔦かへでしげる山路の村しぐれ旅行く袖に色うつりけり
君にのみおもひをかこつ袖なれど拂ひもあへぬ山の露かな
はまゆふや重なる山の幾重ともいさしら雲の底のおもかげ
釣り船や月にさをさす海士人を頼みても来ぬ旅のねざめに
ゆきかへり浪の上にや年へぬる浮きたる身をばかつ恨みつつ
深き夜を急ぐたもとの露けさは草のまくらの別れなりけり
狩ごろも雪うちはらふ夜を重ね萎れにけりなうつるいろいろ
知らざりし尾上の松にめをかけて過ぎつる浦の程をしるかな
思ひやる君が八千代を三笠山こころのすゑのしるべたがふな
ももしきや照る日の前に取るほこの立つる心は神も見るらむ
古き跡を見ゆづる方のあまたあればいづれの山に庵占めまし
心とてわがものがほに頼めても終のすみかのゆくへやは知る
年を経て心の空にかくれどもあはれはたつる嶺の雲かな