程もなく去年の月日の廻りあひて又たちきたる白重ねかな
ともまちし垣根の雪のいろながら夏をばひとにつぐるうの花
とりあへず過ぐる日数の程もなくかへしし小田に早苗ううなり
来鳴くなるしげみが底の時鳥こころのまつの色かわくらむ
住み見ばや岩もるしみず手にくみて夏よそげなる松の木の下
苫びさし煙は絶えてほどすぎぬ雲となみとのさみだれのそら
この頃は賤がふせやの垣ならび涼しく咲ける夕顔の花
ならの葉のそよぐ一木の下かぜに契らでつどふ村のさとびと
月待つといはでぞ誰もながめつる閨にはうとき夏の夜の空
はかなくも命にかふる思ひかなとばかり見まし夏蟲の身を
夏の夜は憂きあかつきの雲もなし心のそこに月はのこりて
龍田山一葉おちちるなつかげもおもひそめてし色は見えけり
ちかしともあきのけしきの見ゆるかなみだるる蛍山のはの星
はちす咲くあたりの風のかほりあひて心のみづを澄す池かな
なにとなく惜しまで過ぐる月日にもものあはれなる夏のくれかな
己のみ砕けて落つる岩波も秋ふくかぜに聲かはるなり
道芝やはかなきすゑの露までもいかに結べる秋にかあるらむ
長月のありあけの月のあなたまで心はふくるほしあひのそら
へだつらむいくへの雲の外にして秋風吹くと雁のきくらむ
白露のおくての稲葉うちさわぎ久しく秋の風になるべき