和歌と俳句

藤原定家

一字百首

のこりなく枯れぬる空の色がほに一葉くもらぬ冬の山ざと

後の世の心もしらじあじろもりさえたるそらの月のよなよな

すがはらやふしみの宮の跡ふりていくよの冬の雪つもるらむ

みなといりのあしまの氷けさとぢてさはり障らず舟も通はず

風さやぐいなの篠原雪ふりてみちこそ絶えめおともたえぬる

冬ふかきありあけの空もくもとぢて雪に隈なきをちこちの山

うきねする鴨の上毛にふる雪をかさなるとしの数に見るかな

筒ゐづのゐづつのたるひとけぬまに程なく暮るる冬の影かな

皆人のはるをむかふるこころこそ年のくれぬる気色なりけれ

日も暮れぬ今年はけふを限にてあはれ我が世も知らぬもの故

おほかたにききてややまむ人知れぬ頼む契りのそれもしらねば

ものおもふ袖のよそめはしるくともさぞとは誰か君につたへむ

形見かはただよそながらそれと見て出でこし宿の軒の草葉は

けふはまたありしよりけに音をぞ泣くうきだにそひしよその面影

にほふ夜はさらずものこそ悲しけれ梅さく春と人や頼めし

ことぞともなくて別れし夜半の空月さへあかぬ袖にとまりて

人知れぬ涙の底の水屑より浮きいでてまよふ我がこころかな

わればかりつらき契りは又もあらじ心のあたの報ひ悔ひつつ

久しくも逢はで過ぐべき月日とはかけても知らず知らばいはまし

手に掬ぶほどだにあかぬ山の井のかけはなれ行く袖の白玉