鹿のこゑ嵐の風もおしなべて秋のあはれは山近き庵
野邊はいま萩のしたつゆぬきみだり風もいろづく秋のゆふぐれ
須磨の浦秋吹くかぜに誰すみてもしほたれけむ跡も悲しな
捨てつとも厭ふ心やよわるべき秋よりのちの月の夜ごろは
霧立ちて木の葉はしたに色づきぬ夜渡る月の末をかぞへて
二度とあひ見む夜々を頼むかないへば悲しき秋の夜の月
散りにけり籬の萩の葉のみして露より上に月ぞ残れる
はじめなき月のゆくへに身をかへてさらば心の果てを知らばや
刈萱のはかなき露のさばかりも秋としいへば袖にこぼれぬ
松風のひびきにたぐふ唐衣うち絶えてただ音こそ泣かるれ
はし鷹やならすかりばに日は暮れて草の枕も花のいろいろ
霜埋む尾花がしたの枯葉より色めづらしき花のむらさき
もの思はでせかるる袖もなかりけり梢のほかの秋の色かな
見渡せば四方のこずゑは紅葉して秋をかぎりの山おろしの風
契りつつしぼる涙もかばかりぞ空にすぎぬる秋のわかれに
晴れくもる空は時雨のこころかはまがふ木の葉もおなじ木枯し
つてにだに人のとへかし神無月紅葉にとづる里のとざしを
夢をだにまだ結ばずよささ枕ふしもさだめずしぐれあられに
雉子鳴く片野の原に雪ちりてとだちも知らず濡るるけふかな
をしの居る氷のひまに風さえて心のそこぞまづは砕くる