和歌と俳句

拾遺集 貫之
荻の葉の そよぐ音こそ 秋風の 人に知らるゝ 始なりけれ

匡房
秋きぬと しづがいほには 告げねども 荻の葉風の しるきなりけり

国信
荻の葉の とはずがたりの そよめきに すずろに目をも 覚ましつるかな

師頼
さらぬだに 秋はねざめも あるものを けしきことなる 荻のうは風

源顕仲
待てといひし 人やわけくる 荻の葉の そよぐけしきの ただならぬかな

仲実
はるひ見し 荻の焼け原 いつのまに 上葉の風の そよと吹くらむ

師時
来る人も 無きわがやどの 荻の葉に 糸ひきかけて 蜘蛛のふるまふ

藤原顕仲
いまこむと ちぎりしほどの ゆふぐれは 荻の葉風ぞ 人頼めなる

基俊
秋風の ややはだざむく 吹くなへに 荻の上葉の 音ぞ悲しき

永縁
いとどしく ものの悲しき 夕暮れに あはれをそふる 荻のうは風

隆源
待つ人も 無きやどなれど 荻の葉の そよとなるには おどろかれけり

京極関白家肥後
つれづれと さびしきやどの ゆふぐれに 荻の葉風ぞ 人頼めなる

祐子内親王家紀伊
荻の葉を ふきこす風の おとたかみ 穂にいでて人に 秋をしらする

前斎宮河内
さよふけて そよがばそよげ 荻の葉に 人待たぬ身は はかられはせじ

詞花集 敦輔王
荻の葉に 言とふ人も なきものを 来る秋ごとに そよとこたふる

頼政
目に見えぬ 風の来たらば 告げよとて うゑてし荻ぞ 契りたがへぬ

頼政
秋風の 身にしむころを そよそよと うなづく荻ぞ もろ心なる

頼政
風ふけば 汝が垣たたく 荻の葉を たそがれ時に 訪はせつるかな

俊恵
夕まぐれ あたりにそよぐ 荻のおとに こゑうちそふる 葦のながかき

俊恵
わがやどに かこひこめずは おほかたの のもせに満てる 荻かとや見む

俊恵
わがやどに 萩をみなへし うゑしかど 寝覚めの友は 荻ばかりこそ

俊恵
うつしうゑし ぬしは誰とて 荻の花 宵々ごとに われは刈るらむ

新古今集 俊成
荻の葉も契ありてや秋風のをとづれそむるつまとなりけむ

定家
おしなべてかはる色をばおきながら秋をしらする荻のうはかぜ

定家
わすれつるむかしを見つるゆめを又猶おどろかす荻のうはかぜ

定家ゆふさればすぎにし秋のあはれさへさらに身にしむ荻のうはかぜ

定家
ふくかぜに軒端の荻はこゑたてつ秋よりほかにとふ人はなし

定家
荻の葉にふきたつ風のおとなひよそよ秋ぞかしおもひつるごと

定家
人ごころいかにしをれど荻の葉の秋のゆふべにそよぎそめけん

芭蕉
荻の声こや秋風の口うつし

芭蕉
唐秬や軒端の荻の取ちがへ

芭蕉
荻の穂や頭をつかむ羅生門

千代女
かたびらの襟にはくさし荻の音

千代女
穂に出てや二見に通ふ荻の音

一葉
とはるるはおもひたえたる我がやどを猶おどろかすをぎの上風

漱石
苫もりて夢こそ覚むれ荻の声

石鼎
空山へ板一枚を荻の橋