和歌と俳句

源頼政

誘そひつる 人にも告げで まづさきに 立田の山の もみぢ葉を見む

露しのぐ 山路のは うらうへの 袴にさへぞ うつろひにける

よりかかる 籬もあれて 刈萱の 乱れも知らず うち伏しにける

風ふけば 汝が垣たたく の葉を たそがれ時に 訪はせつるかな

出でぬまの 山のあなたに 思ひこす 心や先に をみるらむ

夜もすがら 冴えゆく月を 山の端に おくりつくるは 心なりけり

月きよみ 今宵ぞ見ゆる 水底の 玉藻にすだく さいの数さへ

光をば 秋のためとや をさめけむ とりいでたりと 見ゆる月かな

残るべき 垣根の雪は まづ消えて 庭はつもると 見ゆる月影

住吉の 松のこまより 見渡せば 月おちかかる あはぢしまやま

浦つたひ 鳴尾の松の かげにきて また隈もなき 月を見るかな

月きよみ しのぶる道ぞ しのばれぬ よに隠れてと 何おもひけむ

秋のよも 我が世もいたく ふけぬれば かたぶく月を よそにやは見る

名にたかき 秋はふたよと 知りながら まつ見る月に しかじとぞ思ふ

月はただ 今宵をのみぞ 待たれつる 過ぎぬる方や 山の端なるらむ

われ見ても たぐひおぼえぬ 月の夜は ふりぬる人ぞ まづ訪はれける

七十路の 秋にあひぬる 身なれども 今宵ばかりの 月は見ざりし

かげやどす 御手洗川の さやけさは 月もや今宵 あま下るらむ

ひとすぢに あふぐ心を 住吉の 空ゆく月に わけぞやらるる

有明の 月もやわれを 惜しむとて いらぬさきには いらじとぞおもふ